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名古屋地方裁判所 昭和38年(行)20号 判決 1965年10月12日

名古屋市中区大池町三の一八

原告

奥村俊幸

右訴訟代理人弁護士

高野篤信

鷲見弘

名古屋市中区南外堀町六の一

被告

名古屋中税務署長

伊藤育

右指定代理人

名古屋国税局大蔵事務官

須藤寛

猿渡敬三

法務大臣指定代理人

名古屋法務局

部付検事 水野祐一

法務事務官 天野俊助

右当事者間の昭和三八年(行)第二〇号所得税更正決定取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

第一、原告訴訟代理人は、

一、被告が原告に対し昭和三十七年三月十二日付を以てなした原告の昭和三十三年度分所得税についての更正決定中、別紙目録記載の(一)、(三)、(四)及び(五)の各土地の譲渡所得に関する更正決定を取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

第二、被告指定代理人は、

主文同旨の判決を求めた。

(当事者双方の事実上の主張)

第一、原告の主張

一、原告は昭和三十二年十二月二十一日頃訴外名古屋市瓶杁土地区画整理組合から別紙目録記載(一)乃至(五)の各土地を譲り受け爾来右各土地を所有していたものである。

二、原告は昭和三十四年三月十六日右各土地の譲渡に基く昭和三十三年度分譲渡所得額を金八十一万六十円、所得税額を金二十三万四千四百四十円とする確定申告書を昭和税務署長に提出したところ、被告は昭和三十七年三月十二日付を以て原告の昭和三十三年度分譲渡所得額を金二百九十八万七千二百二十九円、所得税額を金百一万七千四百三十円と更正し、且つ金三万九千百円の過少申告加算税を附課する旨原告に通知し、原告はその頃これを受預した。

三、原告はこれに異議があつたので、所定の期間内に右更正決定に対し再調査の請求をなしたところ、被告は昭和三十七年四月二十日附を以て、右再調査の請求を棄却する旨原告に通知した。そこで原告は更に所定の期間内に名古屋国税局長に対して審査の請求をなしたところ、同国税局長は昭和三十八年八月三日附を以て、前記更正決定中、その一部(別紙目録記載(二)の土地の譲渡所得に関する分)はこれを取消す旨通知し、原告は同年同月十六日これを受預した。その結果、原告は昭和三十三年度における譲渡所得額を金二百五十七万六千六百六円と認定され、所得税額金八十五万三千百九十円、過少申告加算税額金三万九百円、合計金八十八万四千九十円を賦課されることとなつた。

四、しかしながら、原告は昭和三十三年度中において、別紙目録記載の(一)、(三)、(四)及び(五)の各土地(以下、単に本件土地と略称する)を譲渡したことはないから、被告が原告の同年度譲渡所得金額を金二百五十七万六千六百六円とし、これに対する所得税額を金八十五万三千百九十円、過少申告加算税額を金三万九百円と賦課した右処分は、その認定を誤つたものであつて違法であるから、その取消を求めるため本訴に及んだものである。

第二、被告の答弁及び主張

一、原告の主張事実中

(一) 第一項のうち、原告が訴外名古屋市瓶杁土地区画整理組合から本件土地を譲り受けて所有していたことは認めるが、その譲り受けた日時はこれを争う。また原告が別紙目録記載(二)の土地を右訴外組合から譲り受け、これを所有していたとの点は否認する。

(二) 第二、三項は、全部これを認める。

(三) 第四項は争う。

二、本件課税処分の経緯は次のとおりである。

(一) 原告は昭和三十四年三月十六日訴外昭和税務署長に対し、別紙課税処分表中申告欄記載のとおりの確定申告書を提出した。

(二) そこで右署長は、右確定申告書に基いて調査した結果、原告の右申告は過少申告であることが判明したので、更正処分をなそうとしたところ、原告の住所が被告の所轄内に異動していたので、被告はこれを承継し、所得税法第四十四条に則り別紙課税処分表中更正決定欄記載のとおりの更正処分を行うと共に、同法第五十六条所定の過少申告加算税額を決定し、昭和三十七年三月十二日附を以て原告に右決定を通知した。

(三) ところが原告は右更正決定を不服として、同年四月十一日被告に対し再調査の請求をなしたので、被告は再調査したところ、原告の右請求にはその理由がないものと認められたので、同年四月二十日附を以て、右請求を棄却する旨決定し、その頃原告に通知した。

(四) 原告は更に右決定を不服として、同年五月十五日附を以て訴外名古屋国税局長に対し審査の請求をなしたところ、同国税局長は原処分には譲渡所得金額の一部につき誤りが認められるとして原処分の一部を取消し、別紙課税処分表中審査決定欄記載のとおり審査決定をなし、昭和三十八年八月三日附を以て原告に右決定を通知した。

三、よつて前記更正決定は右審査決定のとおり変更されたものであるが、該審査決定は適法なものである。即ち、

(一) 原告はその所有に係る別紙目録記載(一)の土地を昭和三十三年三月十三日訴外鈴木敏夫に、同(三)乃至(五)の各土地を同年十月十七日に訴外加藤伝治郎に夫々売却したものであつて、その所得金額算定に至る計算関係を原告の確定申告と比較すると左のとおりである。

<省略>

注(一) 該金額は司法書士料三、三二七円、印紙代等一、二〇〇円、訴外水野豊平に支払つた仲介手数料(譲渡価額に対し百分の三の割合によるもの)金九〇、二七〇円の合計である。

注(二) 該金額は司法書士料六、六六三円、印紙代等一、八五〇円、車代二、〇〇〇円、訴外佐久間鎌吉に支払つた仲介手数料(前同様百分の三)金一三二、八七一円の合計である。

(二) 右のとおり原告の譲渡所得についての申告額は、被告の認定額に比較して著しく過少であつたので、被告は原告に対し、別紙課税処分表中審査決定欄の(ハ)所得税額該当部分記載のとおり所得税額を金八十五万三千百九十円と認定するとともに、所得税法第五十六条第一項、第五十四条第四項に則り、該所得税額と原告の申告所得額金二十三万四千四百四十円との差額金六十一万八千七百五十円に対する過少申告加算税額金三万九百円を附加決定したものである。

四、被告は原告の後記反対主張に対し、次のとおり反論する。即ち原告は、訴外奥村俊二が原告に無断で本件土地を譲渡したものであるから、何ら実質的収益の帰属しない原告に対して課税処分のなされるいわれはない旨主張するが、本件土地の譲渡処分は原告自身の意思に基いてなされたものであるから本件課税処分には違法はない。本件土地は原告が前記訴外土地区画整理組合から入札により取得したものの一部であり、その他の部分は昭和三十二年九月十一日訴外中小企業金融公庫に譲渡されているが、右譲渡に際しては原告の実父であり、且つ生計を共にしていた右訴外奥村俊二がその交渉に当つていたものに過ぎず、本件土地の譲渡処分の場合においても右と同様であつたのであり、その故にこそ原告は当初、仮令過少申告とはいえ、訴外昭和税務署長に対し原告名義により自主的に確定申告書を提出したのである。その後原告と右訴外奥村俊二間において、本件土地の譲渡代金の帰属をめぐつて争いが生じ、訴訟が提起されるに至つたものであるが、原告が現実に右代金を受領していないとしても、該事実は本件課税処分と別個の問題である許りでなく、仮に本件土地の譲渡処分が原告主張の如く訴外奥村俊二の無断譲渡であるとすれば、当然附随して生ずる同訴外人の私文書偽造、印鑑盗用、売買の無効を原因とする所有権移転登記抹消請求等について原告は右訴訟において何ら触れることなく、売買代金の引渡のみを求めていること自体、原告は本件土地の譲渡処分の効果が自己に帰属するものであることを認めているものといわなければならない。更に被告の調査によれば、本件土地の譲受人は、いずれも本件土地を原告から買受けた旨回答していることからしても、原告自身の譲渡であることは明らかである。

第三、被告の主張に対する原告の答弁及び反駁

一、被告主張の本件課税処分の経緯売買価格その他の計算関係は全部認める。

二、しかしながら被告主張の本件各土地の譲渡は、原告の実父である訴外奥村俊二が原告に無断で原告の印鑑を盗用して売却し、その売買代金は原告に交付することなく自己の用途に費消したものである。

三、原告は昭和三十四年三月初旬頃訴外奥村俊二の右無断譲渡の事実を聞知するに及び、同訴外人に対し抗議を申し入れたところ、同人は右無断譲渡の事実を認めると共に、右売買代金を原告に全部交付する旨申し出た為、原告は右申出を信用し、右売買代金額に基いて、原告名義により、前記の如く昭和三十三年度分譲渡所得金額を金八十一万六十円、その所得税額を金二十三万四千四百四十円とする旨の確定申告書を訴外昭和税務署長に提出した。

四、ところが前同訴外人は、その後右売買代金を原告に交付しなかつたので、原告は昭和三十五年七月五日同訴外人を相手として、名古屋地方裁判所に対し、損害賠償請求の訴(昭和三五年(ワ)第一、一一〇号)を提起し、現に同訴は同地方裁判所に係属中である。

五、右に述べたように本件土地は訴外奥村俊二が原告に無断で売却したものである以上、所得税法第三号の二に所謂実質課税の原則により課税処分は収益の帰属する右訴外人に対してなされるべきであつて、原告に課税されるべきいわれはない。

(立証)

原告訴訟代理人は証人石橋三男の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、

被告訴訟代理人は乙第一号証の一乃至四、乙第二号証、乙第三、四号証の各一、二、乙第五、六号証を提出し証人猿渡敬三の証言を援用し、

原告訴訟代理人は乙第一号証の一乃至四、乙第二号証、乙第四号証の一、二、乙第六号証の成立を認め、乙第三号証の一については官署作成部分の成立を認め、その余の作成部分の成立は不知、乙第三号証の二、乙第五号証の成立は不知と述べた。

理由

原告が昭和三十三年頃、本件土地を所有していたこと、本件課税処分の経緯、その計算関係及び本件土地の売却価格については当事者間に争いがない。

そこで、原告は訴外奥村俊二が原告に無断で本件土地を譲渡したのであるから、何ら実質的収益の帰属しない原告に対しなされた課税処分は所得税法第三条の二に違背し違法である旨主張し、被告は右譲渡は原告の意思に基いてなされたものであるから原告に課税した処分は適法である旨主張し、これを争うので判断する。成立に争いのない乙第一号証の一乃至四、乙第二号証、乙第四号証の一、二、乙第六号証、証人石橋三男、同猿渡敬三の各証言及び原告本人尋問の結果を総合すれば次の事実が認められる。

(1)  訴外奥村俊二は原告の実父で原告と隣接している家屋に居住していたが、昭和三十三年三月頃と同年十月頃の前後二回にわたり原告の印鑑を使用して訴外鈴木敏夫外一名に本件土地を売渡して、それぞれ所有権移転登記を経由し、その売買代金合計七百四十三万八千四十円を受領したこと。

(2)  原告は昭和三十四年三月十三日頃、訴外奥村俊二の申出により右売買の事実を知つたが、これを承諾し同月十六日訴外昭和税務署長に対し本件土地の譲渡に基く昭和三十三年度分譲渡所得を金八十一万六十円、所得税額を二十三万四千四百四十円とする確定申告書を提出し右所得税額を納付した。

(3)  ところが右訴外奥村俊二は原告に右売買代金を引渡さなかつたので昭和三五年七月五日同訴外人を相手取り右代金等の返還を求めて名古屋地方裁判所に訴を提起し現在右訴訟は係属中であること。

(4)  昭和税務署長は原告の前記確定申告書に基いて本件土地の売買等を調査した結果原告の申告は過少申告であることが判明し、所管換により被告が本件土地の譲渡所得を金二百九十八万七千二百二十九円、所得税額を金百一万七千四百三十円、過少申告加算税額を三万九千百円とする更正決定をなし昭和三十七年三月十七日原告に右決定を通知した。

(5)  そこで、初めて原告は本件土地の譲渡は原告に無断でなされているから右決定は不満であると主張して被告に対し再調査の請求をなしたが同年四月二十日被告より右請求を棄却されたので訴外名古屋国税局長に審査の請求をしたところ、右局長は原処分を一部取消し本件土地の譲渡所得を金二百五十七万六千六百六円、所得税額を金八十五万三千百九十円、過少申告加算税額を金三万九百円とする内容の審査決定があつて本訴に及んだこと。

以上の事実が認められる。もつとも、前記乙第四号証の一、原告本人の供述によれば前記確定申告をなすに当り現金五百万円等を父奥村俊幸が原告に提供するような条件の下に売買を追認したが奥村俊二がその条件を履行しなかつたから追認は効力を失つたものであることが認められるようであるが右各証拠は採用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

してみれば、過少申告ながら本件土地の譲渡所得につき原告自らが前記確定申告をしていること、当初は訴外奥村俊二の本件土地売渡行為が原告に無断でなされたが後に右譲渡行為を承諾していること、右確定申告後の事情により原告は訴外奥村俊二に対し右売買代金の返還を訴求していることなどより被告が本件土地の譲渡行為は原告の意思に基いて行なわれたと判断して原告に課税した措置は適法である。

よつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村義雄 裁判官 藤原寛 裁判官 植田俊策)

課税処分表

<省略>

目録

(一) 名古屋市千種区星ヶ丘二丁目十六番

宅地 二百五十坪七合五勺

(二) 右同所二十三番

宅地 百八坪一勺

(三) 右同所三十五番

宅地 百二坪六合五勺

(四) 右同所三十六番

宅地 九十六坪八合四勺

(五) 右同所三十七番

宅地 二百三坪一合五勺

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